秀雄が住む、安アパートに被害にあった女性を連れてきた。
茶の間と万年床が敷いてある寝室の二間しかない。
部屋に入るなりすぐに、秀雄はお風呂のお湯をためる。
次に、押し入れの中の衣装ケースから着替えをさがした。
被害者の女性の着替えと言っても、女物などあるはずなく、買い置きしてある新品のトランクス型パンツとTシャツ、そしてスゥエットパンツを風呂場の脱衣所に置いた。
「なにより先にお風呂に入ってきて!
着替えは男物だけど、全部新品だから」
自分はあとで良いという女性を宥めすかして、お風呂を使ってもらう。
女性がお風呂を使っている間、流し台で刺された右手の汚れを洗い流し、傷口を確かめてみた。
思ったとおり、出血の割に傷は浅かった。
しかし右手の指は青紫色に変色し、倍ほどに膨れ上がっている。
ボールに氷を入れて冷やしてみたけれども、冷たいという感覚さえない。
「お風呂頂きました。ありがとうございます」
いつの間にか、風呂からあがって出てきたらしい。
男物のスゥエットパンツとTシャツはブカブカで、胸の二つの突起がTシャツの布地を押し上げていて、目のやり場に困る。
「今、急いでお風呂のお湯取り替えますから」
「いや、あんな喧嘩の後だし、酒も回って眠くて目を開けているのも辛い。
風呂は明日の朝にする。
とにかく今は寝かせてもらうよ。
申し訳ないけれども、臭いのを我慢して、となりの部屋の俺の布団で寝てくれないか」
と言い終えると同時に、ソファーの上で眠りに落ちた。
夜中、体中が痛くて目が覚めた。
人の気配がするので目を開けると、驚いたことに、隣の部屋で寝ているはずの女性が、横に座っている。
「どうしたの?
早く寝なよ」
「ごめんなさい。
全く関係ない人に、こんなに迷惑かけたうえに、お世話になってしまって・・
平然と寝てなんていられないわ」
「気にするな!って言ったよね。
正直に言うと、他人だったら放っていたんだ。
ふと、終電間際までこの部屋にいた娘じゃないか?って心配になったから助けに行ったんだ。
娘じゃなかったから、「じゃあ」って引き返す訳にもいかないし、成り行き上こうなっただけ。
あなたのせいじゃないよ」
「そんなことはどうでもいいの。
私が助けられて、あなたが怪我したことには変わりないもの」
「それじゃあ、今一番して欲しい俺の望みを言うから、それをきいてくれる?」
「ええ、なんなりとどうぞ」
「頼むから、隣の部屋にいって寝てくれないか」
「実は正直に言うと、さっきのことが思い出されて、恐くて寝られないの。
貴方のそばで寝ていい?」
「それじゃ、俺が寝られなくなるよ。
頼むから早く寝てくれないかな」
「ありがとう。
でもここにいる。」