「ラストメール」 その九 徳満耕史著

「折角だけど遠慮しておく。
紗希は昨日、家に帰っていないのだから、ご両親がとても心配していると思う。
だから今日は早く帰ってあげること!。

俺の食事はどうにでもなるし、いざとなれば娘が来て作ってくれるから大丈夫。
常識的に考えて、独身の若い女性が中年男の所へ出入りするのは問題がある」

「こんなことを言うのはとっても失礼だし、自分からお願いしたことだけど・・・
秀雄さんが“紗希”って、私のこと呼んでくれるでしょう。
何か、すごく暖かくて頼りがいがあって安心出来たの」

「紗希とは親子といってもいいくらいの歳の差だから、そんな風に感じたのかも知れないね」

「じゃあ、私のことを一人の女性としては見てくれていないのね?」

「ちゃんと常識と身の程はわきまえているつもりだよ。
紗希を恋愛対象と考えるほど、俺は若くない。
紗希は娘との方がずっと歳が近い」

「そんな年齢のことなんて気にする必要ないのに」

「ところで、紗希の彼だって、紗希って呼んでいるんだろ」

「でも違うの、秀雄さんから紗希って呼ばれると何だかほっとするけど、
彼の呼びかたって、変に威張っていて見下した感じなの。
呼ばれた瞬間、身震いすることもあるわ」

「男って見栄っ張りだから、自分の彼女にはちょっと偉ぶってみたいのさ」

頼んだ料理が運ばれてきたが、食欲が無かった。

「秀雄さんの口に合わなかった?」

「いや、初めて食べるから、どんな食べ方したら良いか判らなくて。
紗希が食べるのを観察していた」

「ばっかみたい。
どんな食べ方でもいいのよ。
秀雄さんって、子供みたいなところもあるのね」

紗希ががっかりするので、口には出さなかったが、正直なところスパイスの味が強烈なスープカレーより、食べ慣れた普通のカレーの方が口に合った。

食事が終わり、別れの時間が近づいてきた。

「紗希はこれからどうする」

「まずはお家に帰って、それからお仕事」

「部屋に残してきた、昨日着ていた服はどうしようか」

「もう二度と着る事は無いから捨てて下されば助かるわ」

「わかった、娘が来た時に、誤解されても困るから捨ててしまうよ」

「そんな事までさせてごめんなさいね。
明日はちゃんとお礼に行くね」

「いや、もう会うのはよそう。
助けたと言っても、勘違いから成り行きでそうなっただけ。

新しく仕事を始めようと決心するきっかけにもなったし、久しぶりに美味しい朝ごはんも食べさせてもらった。
それで充分」

「それでは、私の気がすまないわ」

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