「ラストメール」 その八 徳満耕史著

秀雄が手を引くように紗希を連れてきたのは、同じスーパーでもファッション専門店が並んでいるフロアーだった。

遠慮する紗希を、半ば強制的にお店を選ばせて中に入った。

笑顔で寄ってくる店員さんに「連れの女性には払わせないで」とクレジットカードを渡し、秀雄は店の外のベンチに座って待つことにした。

ほどなく紗希が店から出てきた。
クレジットカードと利用明細を返してくれたが、予想していた金額の半分以下の金額が記されていた。

「紗希、遠慮して安い服買ったんだね。」

「遠慮なんかしてないわよ。
いつも私、あまり高い服は買わないの。
と言うより、安い服を着ていても、周りの人から見たら高いブランドの服を着ているのだろうなあ!って勘違いさせるのが快感なの。
この服ずいぶんと高かったでしょ?なんて言われたら、やったーって思っちゃう」

「唐突だけど、紗希には当然彼氏はいるんだろう?
彼からはブランド物の服をかってもらうのかい」

「彼というか、離れられない人はいるわ。
でも、よくよく考えてみると彼から服を買ってもらったことはないかも知れないわ。
そんな優しいことしてくれる人じゃないから・・・」

「寡黙で俺について来い!ってタイプだ?」

「ううん全然、どちらかと言えば女々しいタイプ」

「そうなんだ・・・
まあっ、人の彼氏のことを詮索するも良くないな。
それよりこれで、ちゃんとした下着買っておいで。
服にはお金かけなくても、下着のおしゃれにはお金使うんだよ」

多分、お店で一番高い下着を買ってもお釣りをもらえるくらいの現金を手渡した。

「こんな大金は要らないわ。
私、ショーツなんていつも近所のスーパーで3枚で1000円のしか買ったことないの」

「だったら、素敵な下着を身につけて、彼をびっくりさせてあげなよ。
服で遠慮されたから、今度は遠慮しないでね。
本屋で立ち読みしているから、服も着替えてきてね」

本屋で立ち読みしていると、軽く指で肩をつつかれた。
振り返ると、先程買った服に着替えた紗希がいた。

「なる程、安い服でも高い服を着ている様に見せる!っていったのは本当だね。
見違えるほど綺麗になったよ」

「秀雄さん、お世辞上手ね。
でも褒められと嬉しいわ」

渡されたお釣りとレシートを見て、今度は高い下着を買ったことがわかった。
きっと彼が喜ぶだろうなと思うと、少し複雑な気持ちだった。

「さあ、紗希お昼何食べようか。
なるべく箸を使わないで食べられる料理にしてもらいたいけど」

「じゃあ、この近くのスープカレーのお店はどうかしら?
美味しいって有名だから。
実はまだ私も行ったことがないので、一度行ってみたかったの」

「紗希が、良ければ何処でもいいよ。」

注文した料理を待つ時間、会話が途切れた・・。
店を出れば、もう二度と会うことはないかも知れない。
会う必然性は無い。
紗希にとっては昨夜から今までのことは早く忘れた方がいい。
そんな、思いが秀雄の口を塞いでいた。

間を持て余して、ビールをグイグイと飲んだ。
すぐにジョッキは空になりお代わりを頼む。

「秀雄さん、まだお昼前よ。
それに、ここは居酒屋じゃないし、そんなに飲むのは腕の怪我にも良くないわ。
ちゃんとご飯食べなきゃ駄目よ。
私、夜、仕事が終わったらご飯作りに行こうか?」

一瞬、心がときめいたが、口をついて出た言葉は本心とは真逆だった。

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