「ラストメール」 その六 徳満耕史著

紗希が用意してくれた朝食は本当に美味しかった。

 

いつもは朝食抜きか、食べてもコンビのパンと缶コーヒーくらいだ。
久しぶりに自宅でちゃんとした朝食だったの余計に美味しく感じたのかも知れない。
しかし決してそれだけではない、しっかりした家庭の味を紗希は受け継いでいると思った。
お母様が大切に育てているのだろう。

まずは何より先に、紗希の服を買わなければ・・・
この部屋からは出ることが出来ない。

 

右手の刺された傷と、多分折れたと思われる腫れあがった指の治療はどうするか・・・

医者は、腕の傷や指の骨折、体中の傷を見て事件性を疑うかも知れない。
事件性があれば、警察に通報すると聞いたことがある。
警察に呼ばれ追及されると、昨夜の件を隠し通すだけの自信はない。

となるると、紗希も昨夜のことは根掘り葉掘り取り調べをうけるだろう。
当然、紗希の両親にも昨夜のことは知られてしまう。

 

紗希に昨夜の男のことを訴える気があるかどうか確認してからのことになるが、今は病院にいかない方が賢明に思えた。
刺された傷は消毒し市販の薬を使えば、痕は残るかもしれないけど自然と治るだろう。
骨折していると思われる指もテーピングしてればどうにかなるだろう。

「紗希、服買ってくるよ」

「お仕事、行かなくていいの」
「この手じゃキーボード打てないし、それに俺がいてもいなくてもあまり変わらないんだ。
丁度、昨日大きな仕事終わったばかりで俺の出番もなくなったし。

それより、紗希の仕事は?」

「今日は遅番だから、午後3時までに出ればいいの」

それを聞いて、秀雄は近くの大型スーパーに紗希の服を買いに行った。
とはいえ、とりあえず外を歩けるためのものなので、適当にカジュアルな服上下を選び、靴下と靴、歯ブラシを買って帰った。

さすがに、下着を買うのはためらった。
「趣味に合わないと思うけど、この部屋を出てちゃんとした服を買うまで、これで我慢して」

「えっ、お世辞でなく秀雄さん、服を選ぶの上手ね。
とっても気にいったわ」

「そう言ってくれると、お世辞でも嬉しい。
調子に乗って、今度、娘の服も買ってやろうかな」

「だからお世辞じゃないってば。
ところで秀雄さん、その手の怪我じゃ、しばらく仕事出来そうもないわね。
私の責任だわ、どうやってお詫びしたらいいかしら」

「だから、何度も言う様に、紗希の責任じゃないって。
紗希は被害者なんだよ。

友人の会社へは買い物の途中に電話して、辞めるって連絡しておいた。
その方が奴の会社にとっては助かるのさ、俺は戦力外なのに無理に雇ってもらっていたから。
いつまでも友達の温情にすがってばかりじゃまずいと、思っていたところだったんだ。
丁度大きな仕事が終わったから、紗希のことがなくても辞めるつもりだった」

「本当は、じゃあ昨日のことがきっかけで、秀雄さん会社を辞めることになったんでしょう?
気にするなって言われても、やっぱりすごく責任感じてしまうわ」

「嘘じゃなく、これからのことを真剣に考えようと思っていたタイミングに昨日の出来事があった。
これが良い方に向かうキッカケになればと思ってる」

「でも、秀雄さん、何か考えていることがあるの?
迷惑をかけた私が聞くことではないことは分かっているけど・・
とても不思議に思うんだけど、どうして奥さんと離婚することになったの?
それに、秀雄さんが定職に就いていないことも・・・」

秀雄は、今日、これからのことを考えた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です