「ラストメール」 その五 徳満耕史著

朝、目が覚めるとソファー横の小さな食卓の上に、豪華な朝食が用意されていた。

たまに娘が来て簡単な食事を作ってくれることもあるので、それなりの調味料と保存の効く食材は多少は用意してある。

しかし、わずかな食材でこれだけの朝食を作ってしまう料理の腕には感心した。

「おはよう、早いんだね」

「おはようございます。
昨日のことが頭から離れなくて、結局朝まで寝られなかったの。
それに、あなたのお布団・・・すごく男臭いんだもん」

「そっか、やっぱりね。それは悪かった。
そう言えばまだ名前を聞いていなかったけど、聞いていいかな?」

「そうだったかしら。
名前も知らない者同志が同じ部屋で寝ていたなんて不思議ね。
私の名前は紗希です」

「素敵な名前だね。
・・で、紗希さんは働いているの?」

「もう、24歳だし、一応働いていますよ。
親もうるさいし」

「ひょっとしたら学生さんかと思ったけど、社会人なんだ。
何系の仕事?」

「パソコンスクールのインストラクターのお仕事です」

「そうなんだ・・・何だか難しそうな仕事だね」

「私が教えているのは初心者の方達ばかりで、簡単な、メールのやり方とかインターネットの接続の方法だとか。
基本的なことを教えているだけだから全然難しいことはないの。

技術的なことよりも、キーボードすら触ったことない人に、パソコンって楽しいなあ!って興味をもってもらうのが一番のお仕事。

人それぞれに、性格や興味のあることってが違うから。
それでもビジネス系のソフトとか、芸術系のソフト教えている人よりはずっと楽よ。

専門的なことを教えているインストラクターさんはお給料も高いけど、常に新しいことを勉強しなくてはならないから大変みたい」

「そうなんだ!
偶然だけど俺も今、インターネット関係の仕事しているんだよ。
とは言っても友達がやっているIT会社のアナログ的な仕事だけど」

「じゃあ、同じ分野のお仕事ね。
解からない事あったら、ぜひ教えて下さいね」

「いやいや、俺がやっているのは、パソコンの知識が無くてもやれる単純作業。
だから、教えてもらうのは、多分、俺の方」

「そう言えば、私もまだお名前を聞いていなかったけど、聞いていいかしら?」

「隠す程の名前でもないからいいよ。
下仮園秀雄だよ」

「えっと、し・も・か・り・ぞ・のさんって、聞いたことないわ」

「九州の田舎にしかない苗字だよ」

「下仮園さんは、九州の出身の方なの?」

「しもかりぞのって、舌をかみそうだろ!
みんなは、俺のこと『下ちゃん』って呼んでいる」

「ええっ、何で北海道に来たの?」

「俺が九州から来た訳の話しをするには、もう一晩、紗希さんに泊まってもらわないといけなくなるくらい長くなるから、いつか機会があったら話すよ」

「じゃあ今日も泊まって、秀雄さんが北海道に来た訳を聞かせてもらおうかしら・・・
嘘、嘘・・・これ以上ご迷惑をお掛け出来ないんで、すぐにおいとましますね」

「まずは、朝飯食おう!」

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