「ラストメール」 その四 徳満耕史著

秀雄が住む、安アパートに被害にあった女性を連れてきた。
茶の間と万年床が敷いてある寝室の二間しかない。

部屋に入るなりすぐに、秀雄はお風呂のお湯をためる。

次に、押し入れの中の衣装ケースから着替えをさがした。
被害者の女性の着替えと言っても、女物などあるはずなく、買い置きしてある新品のトランクス型パンツとTシャツ、そしてスゥエットパンツを風呂場の脱衣所に置いた。

「なにより先にお風呂に入ってきて!
着替えは男物だけど、全部新品だから」

自分はあとで良いという女性を宥めすかして、お風呂を使ってもらう。

女性がお風呂を使っている間、流し台で刺された右手の汚れを洗い流し、傷口を確かめてみた。
思ったとおり、出血の割に傷は浅かった。
しかし右手の指は青紫色に変色し、倍ほどに膨れ上がっている。
ボールに氷を入れて冷やしてみたけれども、冷たいという感覚さえない。

「お風呂頂きました。ありがとうございます」

いつの間にか、風呂からあがって出てきたらしい。
男物のスゥエットパンツとTシャツはブカブカで、胸の二つの突起がTシャツの布地を押し上げていて、目のやり場に困る。

「今、急いでお風呂のお湯取り替えますから」

「いや、あんな喧嘩の後だし、酒も回って眠くて目を開けているのも辛い。
風呂は明日の朝にする。
とにかく今は寝かせてもらうよ。
申し訳ないけれども、臭いのを我慢して、となりの部屋の俺の布団で寝てくれないか」

と言い終えると同時に、ソファーの上で眠りに落ちた。

夜中、体中が痛くて目が覚めた。
人の気配がするので目を開けると、驚いたことに、隣の部屋で寝ているはずの女性が、横に座っている。

「どうしたの?
早く寝なよ」

「ごめんなさい。
全く関係ない人に、こんなに迷惑かけたうえに、お世話になってしまって・・
平然と寝てなんていられないわ」

「気にするな!って言ったよね。
正直に言うと、他人だったら放っていたんだ。
ふと、終電間際までこの部屋にいた娘じゃないか?って心配になったから助けに行ったんだ。
娘じゃなかったから、「じゃあ」って引き返す訳にもいかないし、成り行き上こうなっただけ。
あなたのせいじゃないよ」

「そんなことはどうでもいいの。
私が助けられて、あなたが怪我したことには変わりないもの」

「それじゃあ、今一番して欲しい俺の望みを言うから、それをきいてくれる?」

「ええ、なんなりとどうぞ」

「頼むから、隣の部屋にいって寝てくれないか」

「実は正直に言うと、さっきのことが思い出されて、恐くて寝られないの。
貴方のそばで寝ていい?」

「それじゃ、俺が寝られなくなるよ。
頼むから早く寝てくれないかな」

「ありがとう。
でもここにいる。」

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