「ラストメール」 その三十五 徳満耕史

「主人の最後は紗希さんのお陰でずいぶんと充実していたようです。
ありがとうございました」

意外な言葉に事情を聞いてみると、秀雄の優しさに触れ、また、涙がとまらなくなった。

変態君から救い出してくれたあの日、ホテルのバーで自分と付き合うことを決めた夜秀雄は、元奥さんと娘さんに手紙を書いていた。

紗希と出会った経緯から、付き合うことを決心した心情を正直に書いた手紙だった。
紗希の年齢からしても、子供のことを考えると早い段階で結婚することも視野に入れている旨も書いてあった。

偶然元の家族と出会っても、双方に気まずい思いをさせたり、憎しみあったりしないよう、又、紗希に後ろめたい思いをさせないための秀雄の細心の配慮だった。
あの日、紗希を泊めなかったのも、ちゃんと元の奥さんと娘達にけじめを付けた後で、堂々と付き合いたいと秀雄が思ってのことだったのだと今わかった。

元奥さんは、秀雄の遺品を少し分けて欲しいと言い、故人の服や自分達が写っている写真を胸に抱えて帰った。

紗希は、長い間触れることのなかったノートパソコンの電源を入れ、読んでもらえることのない秀雄宛てのメール書き始めた。

『奥さんから聞いたわよ。』

秀雄さんは、すべてを失っても生命保険だけは解約していなかったのね。
奥さんは、てっきり生命保険は解約していると思っていた・・・って仰っていたわ。
だって、毎月すごい掛け金だったから職を失って払い続けられるハズがないと思っていらしたって。
お陰で、余生をお金の心配をせずのんびりと暮らしていけるだけのお金を残してもらったって奥さんが・・・

秀雄さんは、別れた奥さんや娘さんのことも決して忘れていなかったのね。
自分や娘のことは相変わらず大切にしてくれた上に、紗希さんの人生も引き受けたのだから、不思議と紗希さんには憎しみが沸かないって言って下さったの。

紗希もようやく表面上は普通に生活が出来る様になってきた。
一人になると、涙がこぼれてきたが寂しいのは一人じゃない。
元奥さんも、娘さんも悲しみと戦っているのを知って自分も闘うことにした。

『秀雄さん』

天国の居心地は良いですか?。
紗希は寂しさで廃人の様になってしまいました。
でも、紗希よりずっと長い間秀雄さんと暮らしていた奥さんや娘さんが必死に、悲しみと闘っていることを知り、紗希も頑張ることにしました。
秀雄さんも天国から応援して下さいね。

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