「ラストメール」 その三十四 徳満耕史

紗希は、突然のメールの意味が分らず、動転するばかりだった。
一睡もせず秀雄の帰りを待った。
メールの内容から何か事件に巻き込まれたのではないか?との不安から胸を締め付ける。

秀雄が帰って来なかった訳を知ったのは、夕方のローカルニュースだった。
仲の良い老夫婦がいつもの様に、早朝、公園を散歩している時に、倒れているいる男性を見つけた。
酔っ払いが寝ているのだろうと思い、起してやろうと近づいたところ、あたり一面に大量の血が流れていたので、慌てて119番通報した。

まもなく救急車が到着したが、救急措置を施すまでもなくあきらかに死後、数時間が経っていた。

紗希は現実を知り目の前が真っ暗になり息をすることさえ苦しくなった。
何を考え、今何をしているのか・・・
目を覚ましているのか・・・
意識があるのかないのか・・・
何処にいるのか・・・
自分で自分のことが分らなくなっていた。

涙さえ出てこない。
意識の回路が壊れてしまっていた。

下仮園秀雄のお葬式は盛大だった。
喪主は九州から駆けつけた秀雄の弟が勤めたが、九州からも大勢の親戚や友人が最後の別れに駆けつけてきていた。

実際お葬式を仕切っていたのは、かつての仕事仲間や倒産した前の会社の従業員達だった。
それに個人的な友人も加わり、故人の人脈の広さがうかがえた。
離婚した元妻や娘達はもちろん、元妻側の親戚も多数列席していた。

紗希も、気力を振り絞り多くの列席者に混じって故人に逢いに行った。
そこで見たお葬式は、義理だけで出席している人は一人も見当たらなかった。
列席者のすべての人が早すぎる秀雄の死を惜しみ悲しんでいた。

別れた奥さんや娘さんを見ても、家族思いだった秀雄の人柄が偲ばれた。
遺影の笑っている秀雄を見るのが辛く、気が遠くなりそうになるのをかろうじて堪えていた。

あの日以来、紗希は自宅に着替えを取りに行っただけで、その他の時間はずっと秀雄の部屋で過ごしていた。
ふと、恐ろしい事が紗希の胸の中に浮かんだ。

私は、本当に生まれつきの悪魔?

私と関わった男性で幸せになった人は一人も居ない。
深く関われば関わるほど不幸になった。
秀雄さんを深く愛すようになったから・・・
悪魔の報いが、秀雄さんを死に追いやったのでは・・・
私と関わったから、秀雄さんが死んだ!

そう確信した紗希は、自分の身を切り刻んで、死んでしまいたいと思った。
その時から、食事も喉を通らず生きる気力も無くしていた。
このまま静かに死を待つ覚悟は出来ていた。

その時、秀雄が目の前に現れた。

「紗希!
紗希と関わったから死んだなんてことがあるはずがない。
紗希のお陰で、幸せの絶頂で人生を終えることが出来た。
やっぱり、紗希は女神だったよ。
天使に導かれて今、天国で幸せに暮らしている。
いつまでもくよくよしないで、元気をだして!
そして俺のためにも幸せを掴んでくれ」

そう言い残していつの間にか、秀雄は消えてしまった。

インストラクターの仕事は、あの日依頼体調が優れないと休んでいたが、スクールの方から解雇を告げるメールが届いた。

アパートの大家さんに、故人とは婚約者だったので引き続き住まわせて欲しいと頼んだら、面倒なことをせずそのまま次の借り手が見つかったのが嬉しいのか、上機嫌で承諾してくれた。

半月位経った時、アパートに別れた元の奥さんが訪ねて来た。
泥棒猫と罵声を浴びせられて当然と思っていたが、元の奥さんの口から出た言葉は、意外なものだった。

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