「ラストメール」 その三十三 徳満耕史著

『今、北見から汽車に乗った』

ごめん、みんな素敵な人ばかりで、ついつい取材が長くなって遅くなってしまった。
多分、札幌駅に着くのが11時頃で、それから乗り換えるから終電には間に合うと思う。
明日は仕事休むから、遅くなるけどゆっくり紗希の手料理で美味しい酒を飲ましててもらうよ。

『そう、ずいぶん遅くなるのね』

でも、秀雄さんとは明日はずっと一緒に居られるから我慢する。
今まで、ずっと待ち続けていたのだから少しくらい遅くなったって大丈夫よ。
今日は、お部屋もピッカピカにお掃除したよ。
それに、秀雄さんが好きだって言っていたお魚のお刺身も買ってあるわ。
それとお煮付と海老入りのちょっと豪華なサラダも作ってあるの。
それにお鍋も。
そんなに食べきれないよ!って言われそうだけど、秀雄さんにいっぱい食べてもらいたくて頑張っちゃった。

『豪華だね』

今、お腹空いているけど、何も口にしないで帰るよ。

『わかったわ』

後は、電車が秀雄さんを運んできてくれるのを待つだけね。
札幌に着いたら、メールしてね。
お風呂のお湯を沸かして、お料理を温め直すから。

札幌駅に着いたのは十一時を過ぎていた。
乗り換えの最終電車にはどうにか間に合い、自宅のある駅に着いた時には11時半を過ぎていた。
電車から降りてすぐ紗希に、駅に着いた旨のメールを入れた。

今頃紗希は食事を暖め直して、風呂にお湯を足している頃だろう。

あの日以来、夜に公園を通ることは無かったけど、一刻も早く帰って紗希の喜ぶ顔を見たかったので、今夜は公園の近道を通って帰ることにした。

紗希の喜ぶ顔を見た後、お風呂に入り、ご馳走を目の前にして乾杯してビールを飲む。
そんな風景を心に浮かべながら、弾むように歩いていた。

紗希がレイプされかけた、築山の付近を通りかけた時に、ダダダと駆け足の様な音が聞こえた。
とほぼ同時に、背中に激しい痛みを感じた。

振り返ると、今度はみぞおち付近に又も激しい痛みを感じた。
何が起こったか、判らないまま意識が薄らぎ倒れこんだ。

「おっさん、久しぶりだな。
俺のことを覚えているかい?
俺は、あんたのことを忘れたくても忘れられなくなった。
ご覧のとおり、鼻が曲がって見られたツラじゃなくなったからな。
あの時から、気持ち悪がられて女も抱けなくなってしまった。
この礼は、いつかきっちりしなくてはと前から思っていたのさ。
今日、たまたまパチンコで大勝して、駅前の飲み屋で一杯やって出てきた所で、偶然おっさんが駅から出てくるのを見ちまった。
都合よく公園の中へ歩き出したから、これはチャンスだと思い後を付けたよ。
おっさん、何か良いことでもあったのかい。
まるで警戒する様子もなく、うきうきして歩いていたから、殺るのは簡単だったよ。

直前まで気がつかないんだから余程浮かれていたんだな。
あの時、俺と一緒にあの女をやっていれば、こんな所で命を落とすこともなかったのによ」

ようやく、何が起こったのか理解できたが、 一歩も歩くことが出来なかった。
背中と、みぞおちあたりからおびただしい血が流れ、その痛みで気を失いそうだった。

途切れていく意識の中で、気を振り絞って紗希にメールした。

『ごめん』

紗希、今日は帰れなくなった。
それと、多分紗希と付き合うことも出来なくなりそうだ。
これが最後のメールになるかもしれないが信じてほしい。

紗希、愛している・・ありがとう。

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