「ラストメール」 その三十 徳満耕史著

本心では、紗希と一緒に居たい気持ちが強かった。
これから先また変な男が紗希に近づいて来ないとも限らない。
それならば、自分の腕の中で守ってあげたいと思う。
何より、今聞いた紗希の真摯な言葉に心を動かされた。

「俺も、会社を潰して一からの出直しだし、 紗希も長い呪縛から解放されて新しい人生が始まる時。
一緒に力を合わせて頑張ってみるか」

「本当、秀雄さん?!」

紗希はみるみる目に涙を溜めて泣き出してしまった。
しばらくすすり泣きがが続いた後・・・

「不束な女ですけど、宜しくお願いします」

と、明るく笑っていつもの紗希に戻った。

食事が終わると、同じフロアーのバーに移り、久しぶりに痛飲した。

「秀雄さん、覚えている?
秀雄さんが、九州から何故北海道に来たのか教え!って言ったらもう一晩泊まってもらわないと話せないって言ったのを!
その話、今日聞かせて頂けないかしら?
つまり、秀雄さんの部屋に泊まっていい?」

「まさか今日、紗希と付き合うなんて約束とは思ってもみなかったから、部屋は散らかり放題だし又改めてゆっくり会おう。
今日は色々あったから、俺も紗希も疲れているし、変態野郎から解放されたんだから、家に帰って大の字になって寝たら。
俺も、今日は約束を果たせたからゆっくり寝たい気分だよ。」

「そうね、残念だけど秀雄さんつかれているものね」

「その代わり、北海道に来た理由を簡単に教えてあげるよ」

「いいの!興味津々」

「あまり、期待しないで!たいした話じゃないから・・
高校の最後の記念に貧乏旅行しようと思ってね!
途中、大阪とか東京とか途中下車しながら北上して、青函連絡船を降りて北海道に着いた時は、ポケットに50円しか残っていなかった。
無賃乗車して大沼公園駅で降りて線路を飛び越えて・・・
その夜は民宿に飛び込んだ。
同部屋の人は、北海道大学の学生さんで、卒業論文で駒ヶ岳の生態系を書く調査のために毎日駒ヶ岳に登っているとのこと!
他にすることもなかったから翌日、学生さんと一緒に登らせてもらったんだ。
その時見た景色は忘れられない!
すっかり北海道の景色の虜になってしまった。

その時、学生さんに無一文で泊まっている事を白状したんだ。
すると、翌日の朝、民宿の女将さんから呼ばれて・・・
『学生さんが、貴方の宿泊費全額出すって言うけど、どういうこと?!』って聞かれたんだ。

観念するしかなくて、一部始終話したら、民宿の女将さんが、宿代は要らない上に早く帰って受験勉強しろって帰りの旅費まで出してくれたんだ!
学生さんや、女将さんの気持ちが嬉しくて、東京進学希望だったのを急遽北海道進学希望に進路変更した。
学生さんや、女将さんだけでなく、何だか北海道全体に恩返しがしたくなってね!
当然、九州に帰ってからは、直ぐにバイトして、民宿の宿代と立替えてもらった旅費分は返したよ」

「へー、そんな事があったんだ。
だから、ホームページも北海道のために!ってこだわったのね!
秀雄さんらしいわ・・
でも、昔から無茶苦茶なことをする人だったのね」

「そうかな?
そんなに無茶苦茶なことなんて全然思わないけど」

「普通、高校生が無銭旅行で九州から北海道まで行こうなんて思わないわよ」

「人を、変人みたいに言うなよ!
その変人とつき合いたいって言ったのは紗希だぞ」

「だから、そばに私が居ないとダメなのよ」

「ははは、わかったよ、よろしく頼む。
ちゃんと、部屋を片付けて掃除しておくから今度遊びにおいで」

「わかったわ、残念だけど今日は帰るわ・・
近いうちに、招待してくださいね」

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