「ラストメール」 その二 徳満耕史著

秀雄がその場で見たものは、ブラウスの前は引き裂かれ、ブラジャーはたくし上げられて白い乳房がむき出しにされている若い女性だった。

(佳織ではない、良かった)

白いブラウスとスカートは土と草で汚れ、半袖から出ている細い白い腕もかすり傷を負って血がにじんでいる。

男は今まさに、スカートをまくりあげ、鬼の形相でパンストとショーツを一緒につかみみ引き下げようとしているところだった。
しかし、女性も必死に抵抗し、それを許さない。

「何しているんだ!」

声が震えていた。

「お前、誰なんだよ?」

男がこちらを向き、怒声をあげた。

「誰でもいいだろ、女性を離してやれ!」

更に声がうわずって震えている。

「うるせいんだよ、おやじ!
俺が終わったら、オッさんにもやらせてやるからその女の手押さえてろや・・・」

喧嘩の力量を瞬時に見切ったのか、相手の男の声には余裕がある。

男がこちらを向いて油断した隙に、組み敷かれた男の腕を振払い、女性が逃げた。
男は動けない。
すでにデニムを膝まで下ろしていた。

女性は、築山の裏の闇の中に消えた。

男はデニムを履き直しこちらを睨む。
邪魔され目的を果たせなかった怒りか、そもそも人を傷つけるのが趣味なのか、薄気味の悪い笑顔を浮かべ、登山ナイフの刃を上に向けて秀雄の前に立ちふさがった。

後ろを見せて逃げたら刺される・・
やるしかない・・

秀雄は中学の頃から結婚するまでサッカーをやっていて、厳しい練習に鍛えてきたので、体力には少し自信があった。
46歳になった今でも、ジムで鍛えているので、無駄な脂肪はなく締まった体をしていた。

(歳はとっても、多分体は覚えているだろう。)

相手は20代前半位だろうか?
いかにも、ケンカ慣れしているような、しなやかな体つきをしていた。

男は、間合いを詰めナイフを持つ右手を突き出してきた。
一寸でのところでかわしたが、酔った体では何度もかわす事は無理だろう。

(いつかは刺される)

恐怖が頂点に達した時、体が動かなくなった。
相手の動きはハッキリと見えているが、体が反応しない。

ナイフが突き出された瞬間、間一髪右手が動き、右胸に刺さるはずのナイフの刃先が、二の腕の肉を裂いた。

激痛が走り、熱い液体が腕からわき腹に流れた。
血を見て、一瞬男がひるんだ。

(チャンスだ)

夢中で組みつき、ナイフを持っている男の右手を両手でつかんで、思いっきり捻った。
運よく男の手からナイフが落ちた。

(これで死ぬことはない)

恐怖心はなくなり、体も自由に動くようになった。

何度も相手のパンチをもらい、地面に這いつくばると、蹴りを入れられた。
それでも無我夢中で腕をふりまわしいたら、一発のラッキーパンチが男の頬と鼻の間に当たった。
久しぶりに拳に感じる骨と骨がぶつかる痛み。
グシャという音。

男の鼻からおびただしい血が噴き出した。
男の服は真っ赤に染まった。

多分、鼻の骨は折れたのだろう。
男の戦意は消失した。

(助かった)

くるりと背を向けと、男はとぼとぼと出口へ歩き出した。。

ナイフで刺された右手の怪我はさほど深くはなさそうだが、体中が痛み、口の中は切れ、手足は土にまみれ擦り傷だらけだった。

深刻なのは最後に相手の鼻の骨を折った右手の指だった。
ズキズキと痛み、早くも腫れ始めている。
多分折れているだろう・・

「何でこんな目に、俺があわなくちゃならないんだ」

と独り言をつぶやくと、背後から女性の声がした。

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