「ラストメール」 その十五 徳満耕史著

社長の一言一句がありがたかった。
まさか、こんなに温かく迎えてくれるとは予想もしなかった。

紗希が現れたから、すべてが良い方向に向かっていくような気がした。
早すぎず、遅すぎず、絶妙なタイミングで紗希が現れた。

その後、以前お世話になっていた仕入先をすべてまわったけど、一部の会社を除いてほとんどが、最初に行った会社の社長様同様、もし再開するなら協力を惜しまないと手を差しのべてくれた。

仕入先のメーカーさんをすべてまわり終えた後、次はお得意先に挨拶にまわった。

「下ちゃん、どうしてたの。
元気だった?
今は仕事何しているの?」

「お陰様で体だけは元気です。
今は決まった仕事はしていなくて無職です。」

「だったらさあ、もう一度やりなよ。
下ちゃんの会社で卸してくれていた商品はよく売れたからさあ。
実際、下ちゃんの会社が潰れてから、ウチの売り上げがすごく落ちちゃって困っていたんだよ。
もう一回、下ちゃんが会社を再開してくれたら助かるなあ」

「いや、今は商品を仕入れする資金もないし、再開しても上手く行く保証もありませんから・・
これ以上、ご迷惑はかけたくはないと思っています。」

「だったらさあ、前金で代金払うよ。
任せるから下ちゃんの裁量で商品仕入れてきてよ。
現金で仕入れするんだからメーカーさんも安心だし、きっと大歓迎だよ」

「でも、仕入れたものが売れなかったらお店に迷惑がかかります」

「だから、そこは下ちゃんの目利きを信用しているわけよ。
下ちゃんが選んでくる商品は必ず売れるんだから。

それに下ちゃんが仕入れしてきた商品は、店員さんに集中して売るように店長命令出すからさ、大丈夫。
売れ残ることなんてないって。
ウチの店員さん、下ちゃんのファン多いから」

ありがたい話だった。

“前金渡すから、そのお金で仕入れして”なんて、通常の取引ではあり得ないことだ。

確かに、先にお金を頂いて、メーカーから仕入れした商品をお店に卸し、その商品が売れれば、みんなが喜ぶ結果になる。
売れることが最低条件ではあるけれども。
その日の夜、紗希へのメールで仕入先やお得意先との会話を詳しく書いた。

『秀雄さん、すごいね』

みんな、秀雄さんが前の仕事を復活するのを、心待ちにしてくれていたんだね。
普通は絶対にこんなことないと思うよ。
普通、会を潰した会社の社長さんって雲隠れして、二度と関係者の前には姿を見せないでしょう。
なのに、秀雄さんはお詫びの挨拶をしてまわるから、多分秀雄さんのことを怒っていた人も、真摯な態度を見て、見直したのね、きっと・・・

『違うんだよ』

本当は、俺はお詫びの挨拶廻りするをつもりなんかなかったんだ。
申し訳なくて、情けなくて、合わす顔がなくて雲隠れしていた。

友達の会社を辞めて、何かを始めようと思った時、まずは迷惑をかけた方々にお詫びしなければ、何をやっても上手く行かないぞ!って、声が聞こえたのさ。

その声の主が、紗希だったんだよ。
紗希は、自分のことを悪魔だって前に言っているけど、やっぱり俺にとっては女神さんになりそうな気がする。

翌日の朝、受信ボックスを開くと紗希から衝撃的な内容のメールが届いていた。
多分、深夜、時間をかけて書いたのだろう。

『本当の事』

秀雄さん、これから書くことを読んで、びっくりしないでね。
秀雄さんが、私のことを誤解して女神なんて言ってくれるから、本当の私のことを伝えておかないと、とても悪くて・・

これから書く私が本当のわたしなのよ。

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