「ラストメール」 その十四 徳満耕史著

まずは仕入れ代金を決済出来ずに、迷惑をかけたメーカーさんにまわろうと思った。
罵声を浴びせられるのは覚悟の上だった。

今出来ることは、誠心誠意謝ることだけだと自分に言い聞かせた。
幸いなことに、連鎖倒産は自分の会社で止まっていて、メーカーさんの会社は残ったままだった。

恐る恐る、主要メーカーさんの会社の玄関の扉をあけた。
中にいた社員は皆、驚いた顔で秀雄を見た。

中には明らかに怒気を帯び、秀雄を睨み付けている社員もいる。
当然だろう、連鎖倒産は免れても、減給やボーナス額が減ったこと想像に難くない。

その責任は自分にある。
「何故、もっと早く謝りに来なかった」
と目が語っていた。

受付の女性に社長に面会を求めると、すんなりと応接室に通された。
しばらく待たされたのち社長が現れた。

「下ちゃん、久しぶり!今何しているの?」

(罵声を浴びせられると覚悟していただけに、以前と変わらない口調に拍子が抜けた思いがした)

「しばらくの間、友達の会社に世話になっていましたが、今は無職です」

「でっ、これから先どうするの?」

「まだ、漠然としていますが、友達の会社でやっていたようなインターネット関係の仕事を一人で立ち上げてみようかと思っています。
でも、それだけじゃ食べていけないので、バイトも掛け持ちしようと思っています」

「そうか・・・また前の仕事をやり直すから、もう一度商品を分けてくれと頼みに来たのかと、期待していたんだけどな」

「社長様にはご迷惑をかけてしまったにもかかわらず、お詫びするために、お邪魔する勇気が出ずじまいでした。
しかし、もう一度、人生を前向きに頑張ってみる気持ちになりました。
それにはまずご迷惑をお掛けした皆様にちゃんとお詫びすることがなにより先決だと思い、意を決してお邪魔した次第です。
今のところは前の会社と同じ様な仕事をしようとは思っていません。
今は、生活するだけで精一杯で、仕入れする運転資金もありませんし、たとえ資金があったとしても、それはご迷惑をかけた皆様に返済するのが筋だと思っています」

「迷惑をかけたと言っても、下ちゃんは手形に裏書して回しただけだろう。
まさか、あのグリーン・ハウスが、こんなにあっけなく潰れるなんて誰も予想がつかなかったよ。
言って見れば下ちゃんだって被害者だ。
だから、俺達仲間内では、下ちゃんのことを悪く言う奴はいないぞ。
それどころか、もし下ちゃんがもう一度やり直したいって言えば、皆で協力しようって言い合っていたくらいだから。
消息不明になっていたから、みんな心配していたんだぜ」

「本当にご挨拶が遅くなってすみません」

「いやいや、逆に遅くなったほうが良かったかもしれない。
下ちゃんの会社が駄目になった当初は、正直、俺の会社も資金繰りに穴があいて大変だったよ。
そんな時に下ちゃんがのこのこ現れたら、聞く耳持たずに追い返していたかもしれない。
でも、半年経った今はだいぶ落ち着いたから、喜んで下ちゃんの復帰を応援出来る様になった。
丁度良い時期じゃないかな・・
それは、下ちゃんと付き合っていた連中、みんな同じだと思う」

「ありがとうございます。
皆様の優しいお気持だけを頂いておきます。
でも、やはりご迷惑をおかけして、その返済も終わらないうちに商品を分けて下さいという厚顔なお願いをする事は出来ません」

「相変わらず堅いなあ。
下ちゃんは、個人で債務保証していた訳じゃないのに財産を全部処分して社員の退職金に回していたそうだね。
そのことは、下ちゃんは口に出さないけど、俺のところと下ちゃんの会社の銀行の担当者が一緒だったから、そいつから聞いたよ。
人が良いというか、バカ正直と言うか、さすが下ちゃんだって感心していたんだよ。
それに奥さんとも別れる羽目になって、もう充分清算は済んでいるじゃないか・・
人の好意は、素直に受けた方がいいぞ。
前みたいに俺のところの商品をたくさん買ってくれたら俺の会社も助かるし、俺に悪いと思うなら、もう一度いっぱい仕入れて儲けさせてくれよ」

「有難いお言葉、心に沁みます。
微力ですが社長様のお役に立てるのであれば、もう一度良く考えて見ます」

「下ちゃん、気にしないでこの業界に帰っておいで」

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