「ラストメール」 その一 徳満耕史著

事業に失敗し、妻子とも別れ、何もかもなくしたが再起を目指すストイックな中年オヤジ!
付き合った男がストーカー・・・男性不信に陥った若くて美しいパソコン・イラストレーター!

ある事件がきっかけで二人は出会う
その後に待ち受けている衝撃の出来事とは?

『ラスト・メール』 トク著 2006年8月25日 初刊発行

「今日は帰りは遅いの?」

(それにしても、パパの部屋、汚なすぎだよ!
これじゃ、新しいお嫁さん来てくれないよ。
かわりに佳織がお掃除しておくね。
せっかく美味しいご飯作ってあげようと思って来たけど、また何処かでお酒飲んでいるのでしょう!
久しぶりに来たから、お父さんの顔を見てから帰りたいけど・・)

別れた妻に引き取られた、娘からのメールだった。
あいにくこの日は、大きな仕事を無事に終え、友人と二人でささやかな祝宴をあげていた。

「今、ススキノの居酒屋」
(佳織悪い!
今、仕事の打ち上げで飲んでいる。
折角来てくれたのに、申し訳ない!
前もって連絡してくれれば、真っ直ぐ帰ったのに・・
お母さんが心配するから、早く帰るんだぞ!
あのなあ、ちゃんと綺麗に掃除してくれる相手探すから佳織に心配してもらわなくてもいいから)

連日の徹夜仕事の疲れからか早く酔いがまわり、珍しく一軒だけで切り上げた。
時計をみるとまだ電車が動いている時間だった。

電車を降り、普段は通る事のない公園の中道を通り自宅へ向かう。

いつもは薄気味悪くて決して通る事のない公園の中を通る近道も、恐怖心より早く布団にもぐりこみたい気持ちの方が勝った。
この公園は、住宅街にありながら、近所の少年が野球をするための充分な広さのグランドとテニスコートがあった。

グランドに隣接して林に囲まれた場所にはパークゴルフ場が整備され、更にアスレチックフィールド、幼児の遊具までもが設置されいる。

小さな子供からお年寄りまで楽しめる広大な公園で、新興住宅地の憩いの場所となっていた。

バーベキューが出来る場所もあり、初夏のこの季節、休日ともなると近隣の住民だけではなく、かなり離れた所からも大勢の家族連れが集まり、ビール片手に北海道ならではのジンギスカンを楽しむお父さん達の姿が多く見られた。

冬には、そりで滑ったり、スキーの練習をしたりする為の築山も造られている。

昼間は子供からお年寄りまで多くの人で賑わうこの公園も、夜ともなるとその広さゆえ、暗くしんと静まり返っている。
屈強な男性でも近寄るのをためらう程の不気味な雰囲気を漂わせており、日没後に公園を通る人はほとんどいない。

下仮園秀雄は、友人の会社が主業務としているホームページ製作の下請け作業を、収入源としていた。
大口の仕事の納期が迫っており、その為ここ連日徹夜が続き、心身の疲れは限界に達していた。

その仕事も納期期限の本日ぎりぎりに、納期に間に合った。

娘からメールが来たその時間は、居酒屋で飲んでいた時だ。
大きな仕事を終えた安堵感と、久しぶりの酒が体の隅々まで染み渡り、店を出る時にはすでにけっこう酔いがまわっていた。

電車の中では強烈な睡魔に襲われた・・。
どうにか寝過ごす事無く電車をおり駅を出たが、足元はふらついている。

月明かりに照らされた公園の木々は新緑に彩られ、初夏の爽やかな風に揺れていた。
酔って上気した顔に当たる風が気持ちよかった。

公園の中道をフラフラと進むと、築山の裏のパークゴルフ場で何か動く気配を感じた。

胸の動悸が激しくなり、今にも走って逃げ出したい衝動をかろうじて抑えて、早足で通り過ぎようとしたその時、

「やめて!」

と女性の泣き叫ぶ様な声が聞こえた様な気がした。
足を止め、耳をすますと確かに

「やめて、お願いだから」

と懇願する女性の声が聞こえた。

夜、この公園を一人で歩く度胸のある女の人はまず居ない。
では、露出癖のあるカップルが、誰も来ないと見越して変態なプレイを楽しんでいるのだろうか?

いつもなら、ひとつ見物でもさせてもらおうかとスケベ心が沸くところだが、今日は一刻も早く、横になりたい。

(やめとこう)

と思い、又歩き始めたその時、白い物体が立ち上がったと思ったらまた倒れる姿が目に入った。

(間違いないレイプだ!)

助けに行かなくては・・・

(いやいや面倒な事に巻き込まれるな・・・
下手したら怪我だけじゃ済まず、殺されるかも知れないぞ!)

逡巡する心の声・・・・

(ひょっとして、娘の佳織だったらどうする?)

ふと嫌な予感がした。

今日、娘の佳織が来ているのは、メールで知っている。終電の時間まで帰りを待って、止むを得ず公園を通ったとしたら・・・

その予感がよぎった瞬間、もう走り出していた。

 

 

 

 

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