「ラストメール」 その二十七 徳満耕史著

『言っておかなくてはならない事があります』

ありがとう。
秀雄さん。
大切なことを内緒にしていたの。
彼の家に行く前に言っておかなくてはならないことがあります。

あのね、あの夜のレイプの件、私、最初から知っていたの。

彼が、一度レイプしてみたいって言い出したのね。
必死になって嫌だって言ったのに、聞き入れてくれなかった。
いつもの様に最後には、恥ずかしい写真を私の友達や身内にメールで送るって脅かされて、言うことをきくしかなかったの。
あの公園は家族やお友達と、夏になるとバーベキューをやりに行っていたから、良く知っていたの。
夜は誰も通らないことは判っていたし、とても広いから少しくらい騒いでも誰にも聞こえない。
彼があの公園ならいいだろう?って言うからつい、それならって言ってしまったの。

彼が、目的を果たしたら彼の部屋でお風呂入って着替えて帰るつもりだった。

でも、予想もしていない事が起こったの。
秀雄さんが闘ってくれた男は彼じゃないのよ。

てっきり、彼が擬似レイプみたいなことをするのかと思っていたら、全然知らない人が襲ってきたの。
本当のレイプだと分かったから、びっくりして本気で抵抗したわ。
彼は、私が襲われている姿をビデオや写真に撮って、例のサイトに投稿するつもりだったらしいのよ。
普通の写真じゃ反響が少ないので、レイプされている私をリアルに撮りたかったって・・・
後で聞かされた。
サイトでレイプしてくれる男を募集したみたい。

『反吐が出る』

いよいよ人間のクズだな。
それじゃあ、近くに変態野朗がいたんだ?

『多分』

そう、近くでビデオ撮っていたと思うわ。
そこに秀雄さんが現れて私を助けてくれたから慌てたみたい。

『それじゃあ』

その後、俺が紗希を部屋に連れて行ったことは知っているの?

『多分、知らないわ』

秀雄さんがレイプ犯の鼻を折って助けてくれたと同時に逃げて帰ったって言っていたから・・・
私と秀雄さんが今もこうして連絡取り合っていることも知らないわ。

レイプ犯からはあの後に連絡が来て「鼻が折れたけど病院には行けない。だからその分の慰謝料出せ」って言われたらしいわ。
でも払ってないみたい。
しつこくたかられたみたいだけど、脅すならビデオを警察に見せるぞって逆に脅したみたい。

『事情は判った』

クズ共がやりそうなことだな。
どっちにしても良い死に方は出来ない連中だよ。
紗希は、早くこいつらと縁を切らなきゃダメだ。

その週の週末、もう二度と会うまいと思ってカレー屋さんで別れてから三ヶ月ぶりに紗希と落ち合った。
動きやすい服装で来てくれと昨日メールで言っておいたけれども、着てきたのはあの日の朝買ったデニムだった。

「久しぶり、あの時のデニム履いてきたの?!」

「そう、あの時のTシャツも中に着ているのよ。
おうちに居る時は、いつも秀雄さんが買ってくれたTシャツとデニムよ。
何か、守られているようで安心するんだもん。
今日もきっと上手く行くと思うわ」

「そうか、上手くいくと良いな。
じゃあ、変態野郎と決着をつけに行くか」

「ラストメール」 その二十六 徳満耕史著

会社が倒産した以降、今の自分は以前とは正反対の生活をしている。
やっと食べてゆける収入でしかなくなった。
しかし仕事の後のビールがこれほど美味しかったのだといまさら知った。

いろいろな場所でホームページの取材していると、一つ一つの商品や農作物、料理に溢れんばかりの愛情を込めて作っているのかも知った。
たとえ、金銭的には恵まれなくても、幸せいっぱいに暮らしている人も多く見てきた。
ストーカーや変態オタク、モラルのないドライバー、間違った方向に舵をきったこの国の将来を案ずるようにもなった。

今の仕事は紗希が商品を選び、それを納品するだけ。

社屋の建設費も、社員の給料も、借入金の返済も、OA機器のリース代金も、車両費もガソリン代も何も必要なかった。
さほど多くない売り上げでも、引かれる費用が極端に少ないので多くの粗利益が出る。
今までの自分は、ずいぶんと多くの物を背中に背負い込んでいたんだなとつくづくと思う。
重い荷物を全部降ろした今、初めて人の幸せが何であるか判ったような気がする。
それを気付かせてくれたのが紗希だった。

期せずして復帰した以前の仕事も、ホームページの構想もようやく一段落してきた。
腕の傷も治り、指の骨折も痛まなくなってきたので、そろそろ紗希を変態オタクから救い出さなくてはならないと思い始めていた。

『そろそろ』

腕も指の怪我も痛みが無くなってきたし、仕事も順調に推移して落ち着いてきた。

『良かった』

秀雄さん病院に行かないから、指が変になっちゃたらどうしようって本当に心配していたのよ。

『約束していたこと』

例の変態オタクとそろそろ決着つけようか!

『本当なの』

すごく嬉しいけど、そんなに簡単にいくかしら?
秀雄さんの身にまた何かあったらと思うと何か複雑な気持ち。

『気にしないで』

紗希のお陰で逃げていた人生から、正面を向ける人生に戻ることが出来た。
その恩人がネットで恥ずかしい写真を晒されているのを放っておけないよ。
それに紗希のお陰で、メーカーさんもお得意先も、多くの利益を手にすることが出来るようになった。
みんな紗希には宜しくって言っているよ。
その人達の分も、紗希には恩返しをしておかないと・・・

『ありがとう』

秀雄さんがそう言って下さるのなら、ぜひお願いするわ。
その前に、一つだけ約束して。
今の彼と別れることが出来たら、今度は秀雄さんの彼女にしてね。

『それはどうかな』

俺と紗希の歳の差を考えろよ。
俺のみたいなオジサンじゃなくて、若くて誠実な男を見つけた方がいい。

『無理』

前にも話したけど、私は男の人って結局はみんな同じだと思っているの。
でも、秀雄さんだけは違う。
上手く言えないけど、暖かくて安心出来ると言うか、何も迷わずについていけるそんな人なの。

『買いかぶり過ぎ』

彼女うんぬんは別にして、紗希とは人としてずっと付き合っていきたいと思っている。
それに紗希が居なくなると、困る人が多くなったしね。
これから、ホームページを作るに当っては、いろいろと助言してもらいたいし、解らないことは教えてほしい。
これからもよろしく頼む。

『わかったわ』

じゃあ、ちゃんと彼と別れられる様にして下さいね。
その代わり私の出来る事は何でもお手伝いするわ。

『任しておけよ』

紗希は俺の後ろで、言われたことだけをやってくれれば良いから。

「ラストメール」 その二十五 徳満耕史著

「さすが下ちゃん、どうしたらそんなに売れ筋だけ選ぶことが出来るの?!
下ちゃんが選んで送ってくれた商品は本当に良く売れるよ。
売れなかったら店員さんにはっぱをかけなくちゃならないって思っていたけど、全然、普通に売れてるからびっくりしてるよ」

「それは良かったです。
実は、売れたからお話出来ることですが、久しぶりに仕入れに行って全然何が売れる商品か判らなくて、その日は何も仕入れ出来なかったのです。
たまたま知り合った女性に、メーカーさんで撮った商品の写真を見てもらいました。
大変無責任ですが、今回はその女性が選んだ商品だけを仕入れしました。
ですから、今回は売れた商品は僕の選んだのではなく、その女性が選んだ商品です」

「へぇー、その女性うちの店で働いてくれないだろうか。
でも下ちゃん、そんな女性と知り合えたこと自体、運が向いてきたんじゃない」

それ以来、他のメーカーさんの商品も全部紗希が選んだ。
お得意先にもちゃんと紗希が選んでいることは正直に話して了承してもらっていた。
紗希が選ぶ商品は、よく売れるので、メーカーさんにも、お得意先にも、喜んでもらえた。
また、自分に入る収入も、少しづつ増えてきた。

紗希にも、バイヤーとしての報酬を振り込むから、銀行の口座番号を教えてくれと頼んでも、頑として受け取ろうとせず、口座番号は教えてもらえないままでいた。
しかがないので紗希に内緒で郵便局に口座を作り、そこに貯金する事にした。
その通帳と印鑑は折をみて紗希に渡すつもりでいた。

最近、感じることがある。
会社が潰れる前は、一日、一週間、一ヶ月、一年の単位でいつも売り上げを比較して一喜一憂していた。
右肩上がりで業績が伸び、社員も日を追うごとに増えて行き、倒産前は名前を知らない社員もずいぶんといた。
社員が会社を支えていると言う気持ちはだんだん薄くなり、会社を動かす歯車の一つだと無意識に思っていたかもしれない。

自家用車も、最初は国産の中古車だったのが段々と大きな車に変り、外国の高級車に乗る事がステータスだと勘違いする様になっていた。
しかし、実際に乗ってみると何の感慨も無くまた次の車を欲しがった。

住んで居る家も、狭いアパートから、小奇麗なマンションに移り、次に分譲マンションも手に入れた。
マンションは、狭いし騒音も気になるからと、高級住宅地に一軒家も建てた。
仕事の内容も、汗をかく仕事はしなくなり、商品の仕入れと資金繰りが主な仕事だった。
夜は、お得意先や同業者などと共に食事をすることが多くなり、家には寝るだけのために帰っていた。

休日は、家族と過ごすことが少なくなり、ゴルフや視察と称した国内外の旅行に出かけることが多くなった。
しかし、金銭的には豊かになっても心から幸せだと感じたことはなかった。

というより、常に余裕がなく前に突き進むことしか頭の中になかった。
少しでも売り上げが落ちれば、幹部の社員を叱責した。
倒産の前の数年間は、資金繰りが苦しくなり、融資元の銀行との関係はギクシャクしだした。

グリーン・ハウスの業績悪化に伴い、受取手形の決済日までの日数が増えて、決済日前に割引せざるを得なくなってきていた。
将来を考えると、不安で眠れない夜も多くなった。
明るい雰囲気が自慢だった社風も、段々と社員から笑顔が消え、中堅社員が辞めていった。

それまでは考えられないことだった。
そしてグリーンハウスが倒れた時、秀雄の会社の灯も消えた。

「ラストメール」 その二十四 徳満耕史著

『参った』

今日、以前お世話になったメーカーさんに商品を仕入れに行ったけど、何が売れるか検討がつかなくて困ったよ。

『秀雄さんでもそんなことあるんだ』

でも大丈夫すぐ勘なんて戻ってくるわ。

『それが』

一度は選ぶんだけど、本当に売れるかなあ~って思うと、ついつい弱気になって棚に戻してしまうんだ。
自信がなくなっているんだね。
そう言えば、商品の写真撮ってきたから、紗希、見てみるかい?

『見ても構わないなら見てみたい』

でも、私が見ても何も判らないわよ。
それでも、秀雄さんがどんなお仕事しているのか少しでも知りたいわ。

『じゃあ』

いっぱい、商品の写真を撮って来たから、今から編集して何枚かにまとめる。
時間かかるから、夜中になってしまうかも知れないけど今日中にはメールに添付して送っとく。

本当に便利になったと思う。
デジカメで写真を撮ってきたら、現像所に出すことも無く自由自在にプリントが出来てしまう。
しかも瞬時に世界中何処へでもメールに添付して送ることも出来る。

便利になった反面、変態野朗みたいな人種を生み出してしまう
遠因にもなってしまったのだろうけど・・

約、300点程の商品を、5枚の画像に編集して紗希にメールに添付して送った。

『秀雄さん、おはようございます』

見たわ、可愛い商品いっぱいあるのね。
私が欲しくなるような物もいっぱいあった。
秀雄さん、こんな様な商品を扱っているんだ。
すごく、楽しそうだわ・・・
私もやってみたいなあ~。

『じゃあ、仕入れてみるか?』

紗希、写真加工出来たっけ?
もし、出来るなら、送った画像に、紗希の欲しい商品に○印を付けて送り返してよ。
遠慮しなくていいよ。
実際に買う訳ではないから、直感で欲しいと思うものがあったら印つけてみて。

『写真加工は大丈夫』

簡単な写真加工をして、メールに添付して送ることはレッスンでも教えているから。
でも、私が選んだ商品を本当に仕入れするの?
すごく責任重大、大丈夫かしら。

 

考えてみれば、 お店に買い物に来るお客さんは、ほとんどが紗希と同世代のお客さんばかり・・・
自分の感性で選ぶより、実際に買い物をするお客さんと同じ年頃の紗希が選ぶ方が確実に売れ筋をつかむだろう。

翌日、昨日と同じメーカーさんに行き、紗希が選んで印をつけた商品だけを仕入れて、直接お得意先の雑貨店まで直送してもらうことにした。
一週間程経ってから、商品を送った雑貨店の店長から電話が来た。

「ラストメール」 その二十三 徳満耕史著

『いつも、紗希のメールにはびっくりさせられる。』

俺だって、紗希から誘われたら、あっという間におちるよ。
でも、どんな理由をつけようとも今まで紗希がやってきたことは良くない事だ。
ストーカーや変態野朗と出会わなければ、紗希がこの様なことをする女性には、ならなかったかもしれないけど、それが免罪符になることはないと思う。
心を入れ替えて今までしてきたことの償いをしなくちゃならないね。

そんな折、先日挨拶回りした以前の会社のお得意先から電話が来た。

「下ちゃん、前に挨拶に来たくれた時に話した件、考えてくれた。
先に仕入れ代金払うから、下ちゃんの目利きで商品仕入れてって話。
取りあえず100万円用意したから、これで試しにやってみようよ」

「でも、前の様に売れる商品を仕入れられるかどうか、正直ちょっと自信がありません」

「だから前にも言ったように、下ちゃんが仕入れてきた商品は店長命令で、店員さんに集中して売るように指示するから大丈夫だって。
うちの店員さんのパワーは下ちゃんも知ってるじゃない。
人の好意は素直に受け取らなくちゃ駄目だよ」

「あまりに厚情なお話なので恐縮してしまいますが、そこまで言って下さるのであればご迷惑をお掛けしない様に頑張ってみます」

翌日、全国チェーンの大きな量販店にテナントとして入り雑貨店を営んでいる社長さんから現金100万を預かり、以前お世話になっていたメーカーに出向いた。

「社長様、厚顔なお願いではありますが、また商品を仕入れさせて頂いてよろしいでしょうか。
本来であれば、以前の債務をすべてお返ししてからでないと、新たなお取引は出来ない事は重々承知しております。
しかし、お得意先よりのご要望もあり、先日の社長様のお言葉に甘えて、のこのことお伺いした次第です」

「よく、来てくれた、待っていたよ。
前の残債は、貸し倒れ処理してあるからもう返す必要はないし、そんな水臭いことは言っこなし。
これからもまた、うちの商品をたくさん仕入れて、儲けさせてくれたらそれでいい」

「本当にありがとうございます。
本日100万円用意して来ましたので、その分だけ仕入れさせて頂きます」

「・・で、どうしたの、そのお金?」

「お得意先の店社長さんから、仕入れ資金にと前金で頂いてきたものです」

「やっぱり、下ちゃんの復帰を望んでいたのは、俺のほかにもいたんだな。
下ちゃんは、やっぱりこの業界では必要とされているのがよく判った。
現金なんか用意しなくて良いよ。
以前と同様、掛売りで構わないから、どんどん仕入れしてよ」

さっそく、商品を物色したけど何が売れるかさっぱり判らない。
以前であれば、直感でこれと、これと、これという様に悩まずに商品を選べたのに、ブランクの間にすっかり感が鈍ったようだ。
それと、前金でお金を預かっているため、絶対に売れる商品を選ばなくてはという責任感で、思い切った商品選定が出来ない。
迷って仕入れした商品は必ず売れ残る!というジンクスがあったので、結局何も仕入れせずに気になった商品をデジカメで写してその日は帰った。

「ラストメール」 その二十二 徳満耕史著

あの事件があった頃の公園は緑あふれ、多くの子供達の嬌声が聞こえていたが、新学期がはじまり次第に公園に集まる人の数も減ってきた。
紗希とは、朝と夜に必ずメール交換してきた。
紗希は両親とおばあちゃんと4人暮らしで、お嫁に行った姉がいること。

高校一年生までは成績もトップで、北大を進学希望校にしていたが、ストーカー野郎と付き合うようになってから成績が急落したこと。
高校卒業後、短大に進学したが、やはりストーカー野郎が短大まで押しかけて来る様になったので、止むを得ず短大を辞め就職したこと。
就職先でもストーカー君とのトラブルが絶えなかったことなど紗希の過去を色々と知ることが出来た。

つくづく、女性の幸せはつき合う男次第で決まってしまう理不尽さを感じた。
紗希も、ストーカー野郎と出会わなければ、北大に進学し明るい未来が開けていたに違いない。
少なくとも男性不信の悪魔に成ることはなかったはずだ。

『悪魔の行状』

秀雄さん
私最初は秀雄さんのことをどこかで信用出来ないって言っていたでしょう。
それだけ、ストーカー君や、変態君から植え付けられたトラウマ強いのね。
でもね、秀雄さんと出会ってからずっとメール交換してきて少しずつ、秀雄さんを疑う気持ちが薄れて、逆に、かけがえのない人に思えてきたの。
秀雄さんの前向きな考えと行動には、とても尊敬しています。

秀雄さんが「会社を潰した時に、迷惑をかけた人達に、お詫びしないと何をやっても失敗する気がする」って言っていたでしょう。
私も、私が今までしたことをすべて秀雄さんに白状して、出来ることなら心をすべて入れ替えて人生をリセットしたいと思う様になりました。
迷惑だと思うけど、是非聞いて下さい。

私のスクールは大通り公園の近くのビルの中にあって、交通の便が良いから色々な人が集まります。
基本的には、男性の生徒さんには女性のインストラクターが、女性の生徒さんには男性のインストラクターがつくのね。
少人数の生徒さんとマンツーマンのレッスン出来るのが売りだから、1回のレッスンはだいたい4~5人の生徒さんにレッスンしているの。
インターネットとメールだけのレッスンだから、早い人は3~4回で終了するし、遅い人でも10回もレッスンを受ければ誰でも終了するわ。
うちのスクールはチケット制なのね。
チケットを買って、講義内容の時間割りに合わせて予約すれば、何回も講義を受ける事が出来るの。
だから長くレッスン受けてもらう方が、スクールとしてはありがたいの。

色々な人が、レッスンを受けに来るけど、幸せを絵に書いた様な人も来るわ。
履歴書を見れば、どんな環境で生活しているのかだいたい分るでしょう。
そんな人を見ると(この人も墜ちるかしら?)と凄く興味が沸くの。
悪魔の血が騒ぐというか・・

メールのレッスンの時に、こっそりと自宅のPCのメールアドレスを教えて「特別に課外授業してあげる」って誘うの。
レッスンが終了すると、卒業お祝いだと言っては、食事に行ってそのままホテルに行っりしたわ。
でも、それで終わり。
結局、どんな愛妻家でも間違いは犯す!と確認したらゲームは終了。
どこかで、私の誘いを頑として受け付けない男性を探していたのかも知れない。

学生や年配の人にはね、メールで弄ぶの。
メールレッスンの時に、フリーメールアドレスを取得してもらって、生徒さん同士や私とメール交換するのね。
画像添付のレッスンの時は、わざと私の下着姿の写真を添付して送るのよ。
もちろん、顔は映っていないけど、私の顎の下にほくろがあるでしょう。
そのほくろを強調して映した写真だから、私だって事はすぐ判るの。

間違いなく、その返信には「下着の中も見てみたい」って書いてくるわ。
そのうち、レッスンも終わるからメールもフェード・アウトしておしまい。
何で返事くれないのって、しつこくメール来るけど無視。

まだまだ、色々な悪魔の行状はあるのよ。
でもこんなお話、秀雄さんは読んでいても楽しいはずないよね。
秀雄さんが知らない私の一面も全部知ってもらいたかったの。
私、心を入れ替える。
私が見てきた人とは全然違う男の人がいることがわかったから。

「ラストメール」 その二十一 徳満耕史著

『ありがとう、気持ちだけもらっておくよ』

紗希を利用して金儲けしたんじゃ変態野朗より質が悪いよ。
それにしても、さすがにインストラクターだけあってインターネットのことは詳しいね。

『仕事柄』

生徒さんがインターネットに興味を持ってもらうために、予め色々なサイトは見ておかなくてはならないって思って・・・
時間があればいろいろなジャンルのサイトを見ているの。
政治・芸能・スポーツ・お料理・旅行・音楽・ショッピング、それにアダルトも。

色々な生徒さんがいるから興味のありそうなサイトを教えてあげたりするためにね。
逆に生徒さんから面白いサイトを教えてもらうこともあるのよ。

特に、アダルト系のサイトは騙されて違法な請求されたり、間違って有料サイトと契約したりする事が多いから、生徒さんには注意しているの。
アダルトサイトの場合だと、他の人に相談できなくて泣き寝入りする人も多いの。
だから予め勉強して、なるべく自分の生徒さんから被害が出ないように心がけているわ。
生徒さんが、私の写真が投稿されているサイトを見たりしないかドキドキよ。

『なるべく早く』

紗希が安心して仕事が出来るように、早く変態野朗との縁を切らなきゃ駄目だな。

『でも・・・』

また、秀雄さんが怪我でもしたら・・・
私はどうやって償いして良いか判らない。

『紗希だけのためじゃななく』

変態野朗にはものすごく腹が立っているけど、それと同じくらいモラルが無くなった今の世の中に腹が立っている。

援助交際、ゲーム感覚のエッチ、集団レイプ、ストーカー、変態、子供が子供を育てている現状、躾が出来ない親、パチンコに夢中になって子供を死なす親、幼児虐待、親族殺人、ニート・・・・

俺が紗希くらいの歳の頃と今と比べたら、同じ国なの?と疑うくらいおかしな国になってしまった。
ストーカー野郎も変態野朗も、今のゆがんだ世の中が、作り出したのかも知れない。
ある意味、被害者である変態野朗の目を覚ませてやることも必要かなと思うんだ。

『そう思うわ』

IT技術の進歩が、色々なところに弊害をもたらしているかも知れないわね。
見たいもの、知りたいことは何でもインターネットで実現出来ちゃうし。
我慢することが出来ない子供が増えたって聞くもの。
考えてみれば、ストーカー君も変態オタク君も、自分の欲望を我慢して抑えることの出来ない人達なんだわ。
自分の欲望を満たすためなら、人の痛みも感じられない人間になってしまったのね。

『紗希の言う通りだ』

俺が目指すホームページは、収益性よりもホームページを見てもらう人の利便性を重視した北海道版のミニポータルサイト的なものにするよ。
ニュース・天気予報・道路ナビ・マップ・コンサドーレ・日ハム情報など「北海道の事なら何でも判る」そんなホームページにしてみよう思う。
その中でも一番やってみたいのは、新聞や雑誌には載ることのない様な小さな出来事の情報発信。
素晴らしい商品だけど埋もれてしまっている商品を、日のあたる場所に出してあげたり、近所で美味しいと評判のお店などを紹介したり、頑張っている人や会社の特集を組んで紹介したり、身近に役立つ情報を配信するホームページにしていきたい。

明日からは、バイトのない日は、一日中色々な場所に出かけて、写真を撮ったり、評判のいいお店に出向いて取材させてもらったりと、ホームページに載せる資料つくりに頑張ってみようと思う。

『やっぱり、秀雄さんね』

自分のことよりも、困っている人や、力の弱い人の味方になるなんて・・
今、自分も窮地に居るのに・・
私も、出来る限りの協力はするわ。

「ラストメール」 その二十 徳満耕史著

『まさか!』

秀雄さん・・・そんなことは絶対ないわ。
ネットのお仕事をしているし、彼の影響で、アダルトサイト見たりしているから、カマトトぶるつもりもないわ。

前のメールにも書いた通り、悪魔の紗希は色々な男性と寝てもいるのも事実です。
でも、こんな私でも、これ以上彼のオモチャになはなりたくないの。

いつかお友達や身内の人に見つからないかって、毎日、本当にびくびくしている。
出来ることなら、1秒でも早く別れたいの。
嘘じゃない・・本当だから信じてね。
でも、写真ばら撒かれるって言われたら、今までどうする事も出来なかったの。

『判った』

変態野郎のことは俺が何とかするから安心していいよ。
これから先は、何だかんだ理由をつけて会わないようにして。
キッチリ別れさせてあげるからさ。

『ありがとう』

また、秀雄さんには迷惑かけちゃうね。

昼は、道路工事現場の交通整理のバイトを続けていた。
バイトを始めたころは、部屋に帰って風呂、食事。
その後は何もするにも気力が沸かなかったけれども、この頃ようやく体も仕事に慣れてきて、今後のことを考える気力が出てきた。

友人の会社もIT企業だし、紗希もインターネット関係の仕事しているのは好都合なので、まずは自前ののホームページを利用したビジネスを始めようとボンヤリ思うようになった。
しかし基本な構想が決まらずに悶々とした日が続いていた。

『知恵を貸して』

紗希、その後変態野郎と会っているの?
それはそうと、俺、前にも言っていた通り自分のホームページ作ってみようと思うんだけど、なかなか入り口が決まらなくて困っているんだ。
何かヒントある?

『私で役に立つなら何でも、聞いて下さいね』

変態君とは、なるべく理由をつけて会っていないわ。
でも、機嫌を損ねると怖いから、外でお食事するくらいは会っている。
投稿ネタの写真のストックがある内は、是が非でも会いたいとは言わない人で、前のストーカー君みたいに、強く束縛はしないから、その点だけは少し楽。
例の、写真あるから絶対に逃げられない!って安心しているみたい。

さて、秀雄さんのホームページの件ね。
秀雄さんが、ホームページを利用して収入を得ようと考えているのなら、とても大変だと思うわ。
秀雄さんが、メーカーさんなら自分の会社の商品を紹介して販売することも出来るけど、商品を仕入れてまで小売販売するなら大変かも。

在庫はある程度必要になってくるし、1日中パソコンの前に張り付いてメールチェックしなければならないし。
サンキューメールとか勧誘メールとか面倒臭いこともやらなくてはならないよ。

それに、ネットショッピングサイトは誰でも簡単に出来るから、インターネット上には同じ様なお店が星の数ほどあるの。
余程魅力的ななホームページにしないと、お客さんは来てくれないと思うわ。
ネットショップっていきなり売れ出すってことは稀で、たいていの場合、口コミで広がって行くから、売れ出すまでに1年とか2年もかかるケースがほとんどよ。

それとも、ポータルサイトのショッピングモールに出店する方が、ページ作るのも簡単だし、お客さんも多いから売れる可能性あるかも。
でも、いっぱいお店あるから、余程良い物で、他のお店で売っていない物でないと難しいって、出店した人の話を聞いた事があるわ。
出品する商品を探すのが大変みたい。
出店手数料も高いし、常に広告を出さないと集客出来ないらしいわ。
購入者の好レビューが多いほど、上位に表示される仕組みだから、出店間もないお店は絶対的に不利だしね。

手っ取り早いのがアダルトサイトだと思うわ。
奥さんとか、恋人のセクシーの写真やビデオを撮ってギャラリーサイト作る人多いのよ。
同じ様なサイトの仲間とリンク張ったり、画像掲示板などで、サイトみている人から投稿してもらったり。
人気のサイトになると広告だけで収入になるし、会員制の有料コンテンツを作って収入を得る事も可能だわ。
でも、サイトの看板になる女性の協力がないと、誰でも出来ることではないわよね。

もし、秀雄さんが、アダルトサイトを作りたいなら、私がモデルになってあげてもいいわよ。
彼が、私の写真をあちこちのサイトに投稿しているから、私はネットの世界では、ちょっとした人気者だと思うんだ。
感想の書き込みがダントツに多いって彼が自慢していたから・・・
彼と同じことでも、秀雄さんのためなら私喜んでやるわ。

「ラストメール」 その十九 徳満耕史著

『今の彼、変態オタク君のこと』

秀雄さん
思っきり引くとおもうけど・・・
まだ、話していなかった今の彼の話をしますね。

決して、楽しいメールにはならないけど、秀雄さんにはすべて知ってもらいたいと思います。
今の彼とつき合いだして、普通にしていたのは、例のスーとカー君から救ってもらってから1~2ヶ月くらい。
その後あたりから、段々と変なことを言い出してきたの。

電気つけて明るくしてやりたい・・・
オモチャを使ってみたい・・・
顔にかけたい・・・
縛ってみたい・・・

どんどんエスカレートするの。
アダルトビデオとかWEBのアダルトサイト見ては、それと同じことをやりたくなるのね。
しばらくすると、エッチの時に必ずデジカメで写真を撮るようになった。
それで、その撮った写真をアダルトの投稿サイトに投稿しているのよ。
絶対嫌だ!!って言っても隠れて投稿してた。

隠れて投稿されるくらいなら、私がチェックして顔が写っていない写真だけにして欲しいと約束したんだけど・・
約束を守ったのは最初だけ今では勝手に投稿している。

国内のサイトだと、ぼかさないと投稿出来ないけど、海外サイトだと無修正のまま投稿出来るでしょう。
彼が居ない時に、彼のパソコンのネットのお気に入りのHPを覗いてみたことがあるんだけど、海外の投稿サイトに、私の写真が無修正で投稿されていたわ。

すごく怒って、彼に絶対止めて!!って頼んだら逆に開き直って、私の携帯のメルアド載せて「感想は直接紗希まで」なんてコメント入れてしまうのよ。
それからは携帯のメールに「紗希ちゃんのあそこ綺麗だね!今度直接見せて」みたいな変態メールばっかり入ってくる様になってしまって。

本当に困っている。
彼はその上、その届いたメールを声に出して読めって言うの!
完全に変態でしょう!
だから、何回も携帯のメルアド変えてる。

友達からも「何かあったの?こんなに頻繁にアドレス変えて?!」って心配してくれるけど、本当のことは言えないし。
恐くなって、別れ話を切り出すと、顔の写った裸の写真をネットでばら撒くって言い出すの。

それに、私がお風呂に入って居るすきに、私の友達や勤め先のメルアドを全部コピーしたって。
言うことを聞かないと、恥ずかしい写真をバラまくって脅すの。
そう言われると、脅しじゃなくて躊躇なく本当にやってしまう人だから言うなりになるしかなくて。

最近は更にエスカレートして、外で裸になれとか、裸で車を運転しろとか、信じられない様なことをさせられたわ。
そんな写真を投稿すると反響が大きいらしくて。
今ではもうエッチしたいんじゃなくて、変態っぽいエッチの写真を投稿して、大きい反響が欲しいみたい。
この前は、大勢の男にやられている紗希を見てみたい!!って。
恐ろしいことを言い出したから恐くて毎日が不安。

そんな時に、秀雄さんと出会ったの。
男はみんな同じだと思っていたけど秀雄さんだけは違う。
いや、私が出会った二人がたまたま変だっただけかも知れない・・と思えるようになってきた・・・
そしたら、とても心が落ちつて安らかになったの。

秀雄さん
これが現実の私。
引かないでね・・って言っても、こんな私だとは思わなかったでしょう?
どん引きしちゃうよね。

『ひどい奴だな』

その変態野朗、今からでもぶちのめしに行きたい気分。
それにしても、紗希は男運が悪過ぎだ。
悪魔になって男に復習したくなる気持ちが解かるような気がする。

紗希に対して、嫌な感じは全くない。
むしろ可哀想で愛しくなった。

それにしても、その変態野朗は許せない。
写真をネタに紗希に恥ずかしいことをさせるなんて人間のクズだな。
腕の怪我が良くなったら、今度は俺が変態オタクから救ってやるから。

念の為に聞いておくけど、変態野朗との色々なことを、紗希も実は楽しんでいるってことは無いよね?
人はそれぞれ特別な性癖があってもそれは自由だと思うから。

「ラストメール」 その十八 徳満耕史著

あの日から数日が経ち、右手も腫れも少しずつ小さくなり握力も戻ってきた。
ナイフで刺された傷口は強く押すと痛むけれども、思ったより傷が浅かったので、ほぼ完治した。

とりあえず簡単な仕事は出来るようになった。
なにもせず遊んでいる訳にもいかないので、新聞広告で見つけた交通整理のバイトを始めることにした。

道路工事現場で片側交互通行の交通整理。
赤旗と白旗を持って、双方向へ向かう車を止めたり、走らせたりする仕事だった。

実に簡単な仕事で気を使うことがない反面、ドライバーのモラルの低さにはかなりのストレスを覚えた。
赤旗を揚げているのに、静止を振り切って無理やり通行し、対向車を止めたりバックさせたりすることもあった。

停止しても、車のドアを開け煙草の吸殻の山を捨てて行くドライバー、ペットボトルを投げ捨てるドライバーも一人や二人ではない。

中にはわざわざ車の窓を開けて「この忙しい時に、工事なんかするなバカヤロウ」と罵声を浴びせてドライバーもいる。

馴れない立ちっぱなしの仕事で、腰が悲鳴を上げる。
北海道の夏とは言え、炎天下での長時間の仕事は気を抜くと、めまいがして倒れそうになる。
それに加えてドライバーのモラルの低さに耐えるストレスは大きかった。

大袈裟かも知れないが、この国の将来はどの様になってゆくのか?!
娘達はこの荒廃する一方のこの国で幸せに暮らしてゆけるのか、漠然とした不安がおそってくる。

疲れた体を引きずるようにしてアパートに帰る。
風呂場に飛び込み、冷水で一日中体に浴びた砂塵を流す。
タオルを腰に巻いたままで風呂からでる。
冷蔵庫からビールを取り出して、リングプルを引くのももどかしく、ゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲んだ。
今までの人生の中で一番上手いビールだと思った。

会社が潰れる前も毎日、ビールを飲んではいた。
ビールは最初の一杯だけが上手いと贅沢な事を言い、
コップに注いだビール一杯だけ飲んだだけで、缶に残ったビールに手を付けることは無かった。
コップのビールでさえ残すこともあった。
しかし、今日は一日中早くビールを飲むことだけを、楽しみにながら仕事をしていた様なものだった。

ビールで喉を潤しさっぱりした後、コンビニで買った弁当を食べながら、パソコンの電源をいれた。
パソコンが立ち上がり、メールソフトの受信ボックスが現れるその瞬間はいつもワクワクする。
しかし、紗希からの衝撃的なメールの内容をを読んで、昼間モラルの無いドライバーを見て感じたのと同様の苦い感情がこみ上げてきた。

本当に、この国の将来と、娘達の将来が不安になるのと同時にぶつけどころのない怒りが心の底からわいてきた。